【畑地かんがいの普及啓発】
1. 財団ホームページでの畑地かんがい効果のPR、畑地かんがいの知識等の広範囲での普及活動
 畑地かんがいの効果はもとより畑地かんがいそのものを、北海道の農業地域であっても一般住民も含め知られていないことが多い。 畑地かんがいの認知度を高め、道内各地域への普及の円滑化のために、畑地かんがい効果はじめ畑地かんがいの基礎知識、道内各地域のかん水状況をホームページで公開するものである。
2. 地域研修会・勉強会を通じての啓発普及活動
 地域研修会、勉強会は、地域の農家、農業関係機関等に先進地区等の事例、評価、課題について講演し、地域に畑地かんがいを導入、普及のために支援するものである。
講演内容等 講演先等 年次
「かん水技術の向上をめざして」講演 第13回網走管内畑地かんがい研究会 1997年
「畑地のかん水方法について」講演 斜網地域畑地かんがい勉強会 2005年
「畑地かんがい効果の事例について」講演 JAきたみらい畑地かんがい説明会 2006年
生田原地域畑かん勉強会講師 遠軽町役場、JAえんゆう、網走農業改良普及センター 2006年
平成20年度道央及び安平川地域現地研修会講師 農業土木系コンサルタント技術者 2008年
3. 畑地かんがいに関わる論文・報文発表、学会等発表による技術普及活動
 畑地かんがいに関わる論文、報文発表は、各地域の調査によって得られたデータ、知見等を体系的にとりまとめ、農業土木技術者、研究者、各地域の関係者等に畑地かんがいを広く普及するためのものである。
4. 畑地かんがい試験研究会を通じて畑地かんがい技術確立、普及展開の支援
 畑地かんがい試験研究会は、畑地かんがいに関する試験・調査の効果的な推進のために平成3年度から毎年開催されている。
 道営畑地かんがい推進モデルほ場設置事業各地区の調査結果報告と課題等の検討をもとに、各地区の調査・検討に反映するものである。
 また、畑地かんがいの用水計画、優良事例の報告等により、研究会参加者への技術向上と各地域への普及を図るものである。
5. 手引書、パンフレット作成による啓発普及
 各地域で、末端整備に合わせた畑地かんがい技術の円滑な普及のために、地域の気象、土壌、営農、作型を考慮した畑地かんがいの手引書を作成するものである。
北海道における畑地灌漑の現状と課題
 畑地灌漑の有効性は、地域の気象・土壌条件、営農方式が深く関与している。
 北海道の畑作農業は、冷涼な気象条件から作物の栽培期間が制限され、露地畑での灌漑は主に5月から7月のなかで実施される。
 また、経営規模は府県と比較して一般に大規模であり、それらを分類すると、1)十勝や斜網地域にみられる小麦・テンサイ・バレイショを基幹とする大規模畑作(20~40ha)、2)これらの作物にタマネギ・ニンジンなどを組み合せた中規模畑作(10~15ha)、3)露地野菜とハウス・トンネル栽培を導入している野菜畑作とにおおまかに分類されるが、近年は大規模畑作の一部に2)・3)の作物が導入されつつある。

【地域の気象特性】
 北海道において畑地用水が主に利用される5~7月の平均気温、降水量、蒸発散量と不足水量を表-1に示す。3ヵ月の降水量は200mm前後と少なく、不足水量は70~100mm程度となっている。
表-1 5~7月の気象概要

【北海道の畑地灌漑の現状】
(1) 上川支庁・富良野地域
 富良野地域では、1957年頃から地下水を利用したタマネギなどへの灌漑実績があり、現在、国営・道営事業によって湿潤灌漑約2,000ha、肥培灌漑約490haの用水整備が図られている。
この地域に畑地用水が定着・発展してきた要因としては、1)5~7月の降水量が200㎜程度と少ない。2)灌水効果の顕著な作物を主体にし、灌漑面積率(申請面積/耕地面積)が17~77%(平均34%)となっている。3)地域の畑作農業に適合した省力的な灌水方式が導入されている。4)野菜の主産地としての高い営農・市場対応技術の蓄積があることなどがあげられ、北海道における畑地灌漑の先導的な役割を果たしている。
(2) 網走支庁・上湧別地域
 砂礫質土壌が広く分布する上湧別地域では、1967年頃から地下水や水田用水を水源とする灌水施設が各農家で導入・利用されていたが、水利施設の整備および自走式スプリンクラの導入により1,220haの畑地用水の利用が図られている。
(3) 後志支庁・共和地域
 1965年頃から河川水やため池を水源としていたため、灌水には多大の労力を要していたが、水利施設の整備により約640haの畑地用水の利用が図られ、地域農業の安定化に大きく寄与している。灌水の対象はスイカ・メロンが主体で、露地トンネル栽培とハウス栽培の2方式で行われている。年間の使用水量は、変動幅が小さく安定的な値を示し、年次変動の少ないことがハウス栽培を主体にした水利用の特色である。
(4) 後志支庁・赤井川地域
 1980年頃から、個々のため池に貯水し、ポンプを含む灌水施設が一部の農家で導入・利用されていた。平成17年度には末端施設の整備が完了し、511haの畑地用水の利用が可能となった。
この地域の栽培作物は多様であり、灌水方式も露地栽培では自走式スプリンクラ、定置式スプリンクラと多孔管、ハウス栽培では多孔管(散水タイプ・点滴タイプ)と頭上レール式が栽培様式に対応し導入されている。
(5) 石狩支庁・石狩高岡地域
 高岡地域では、稲作を主体に畑作・露地野菜作、施設栽培を取り入れた複合経営が展開されている。平成13年度に完了した畑地灌漑施設の整備(灌漑対象面積145ha)を契機に、施設栽培の生産組合(ミニトマト・メロン)が発足し、高収益作物導入による営農の転換が図られ、出荷農作物に対する市場評価も高い。

【今後の課題】
 これまでは、土壌の保水性が小さく、降水量の少ない地域で、タマネギ、ニンジンを中心とした土地利用型野菜を主体に、自走式スプリンクラによる省力的な畑地灌漑が普及してきた。一方、近年の動向は、露地野菜作とハウス栽培の組み合せなど、これまでの自走式スプリンクラに加え多孔管の導入もみられている。
 露地畑での灌水は降水分布との関わりが大きく、干天日の発生状況に対応し灌水農家戸数が増加し、連続干天日が7~10日程度になると灌水が集中する。上湧別地域の調査事例では、土壌条件や農家個々の考え方により灌水開始のタイミングが異なることと、所有圃場が複数のローテンションブロックに属していることが、計画上のローテーション灌漑を可能としている。
 一方、赤井川地区の調査事例では、ハウス栽培が主なローテーションブロックの場合、灌漑強度の大きい多孔管(個人導入資材)の利用と複数ハウスの一斉灌漑により、計画用水量を上回る場合がみられた。その対応として、多孔管の改善と適正な利用管理が実施された場合に、適正用水量の範囲内で利用調整できることが実証されている。
 しかし、気象条件によって一定量で長時間の水利用となる露地栽培と競合する場合には、ハウス栽培側で計画用水量の厳守と利用時間帯の調整、農家間の連携体制の確立が重要である。
また、営農面では灌漑用水確保と施設整備が、集約化による所得向上と新規就農の契機となる可能性が高岡地域の調査事例で示されており、多様な作目に対応した灌水技術の確立とその普及が 今後重要な要素となる。さらに、地域の営農指導機関等の連携により、水を利用した新たな営農技術の確立とその普及が重要となる。
 今後、畑地灌漑施設を整備する地域において、地域農業との関わりを明確にし、地域農業の新たな戦略の一つとして、灌漑用水の活用を位置付けていくことが望まれる。また、地域特性に対応した、灌漑技術の確立とその普及が、施設整備効果を確実に発現させるうえで重要な要素となる。


北海道における畑地灌漑の現状と課題、平成18年度農業土木学会講演要旨集pp.72~73(2006)
-北海道の畑地かんがい情報-
1.畑地かんがい施設の効果
~畑地かんがいがキャベツを救う
2.水を利用した畑地農業の新展開  - 畑地かんがい効果の検証と推進 -道営畑地かんがい推進モデルほ場設置事業 音江山地区 (PDF-66KB)
3.水を利用した畑地農業の新展開  - 畑地かんがい効果の検証と推進 -道営畑地かんがい推進モデルほ場設置事業 芦別北部地区 (PDF-79KB)
4.畑地かんがいの必要性に関わる連続干天日の発生状況
5.畑地かんがい写真館
畑地かんがい施設の概要
畑地かんがい用語集
畑地かんがいに関わる研究実績
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